005 モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲 第3番 カデンツァ

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 「正しい音程」 (正確音程
 「本格的な音色」(美しい音)でヴァイオリンを弾くための
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ツィンマーマン(ヴァイオリン)サヴァリッシュ指揮ベルリン・フィル バイヤー モーツァルト ヴァイオリン協奏曲 カデンツァ ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

今でも

 とても驚いたのをよく覚えているのが、中学の時に出掛けたキャンプの際に、班ごとに分かれてカレーを作った時のことです。というのは、色々な材料を用意して、いざ調理…となった際に、同じ班の別の子が小麦粉を使い始めようとしたからで、私は思わず「カレーに小麦粉なんか使うの?」と驚きました。ところが、私のほうが周囲から「カレーに小麦粉を使わないの?」と訊き返され、別の友人が「それぞれの家庭で作り方が違うんだ」と言ったこともあって、私は小麦粉を使ったカレーの作り方を興味深く観ていました。そして、当時はまだインターネットもなかったものの、今であれば、カレーという名前の香辛料は存在しないことや、カレーという料理はイギリス経由で日本に伝えられたことや、それ故ルウという考え方からカレーを作る際には小麦粉を使う…などといったことがネットで簡単に調べられます。そして、私の知っていたカレーは、そうしたイギリス経由のカレーではなくインドの、それも南インドに近い作り方のものだったことなどもわかって、少しも驚くことはなかったと思います

ただし

 それなら小麦粉を使ったカレーは間違った料理か?と言われれば、決してそのようなことはないものの、もしも小麦粉を使ったカレーを本格的なインド・カレーだと称し、インドでも小麦粉を使ったカレーが一部の地域ではある…と主張しているとなると、それはかなり無理があるというよりも、詐欺に近いものがあると思います。

 

そして

 既述のカレーを巡る話は、ヴァイオリンのレッスンでも同じことが言えると思います。つまり、本来のヴァイオリンのレッスンでは、響き聴いて音程取る楽器である以上、チューナーなど使う必要もない…というよりも、前の記事で詳しく書いたようにチューナーを使って音程を確認したところで結果の確認に過ぎず、音程の取り方は学べない…というよりも、音程の取り方を学び鍛える際にチューナーを使うことは無意味で余計なことでしかありません。また、サイトのヴァイオリンの音程の取り方でも掲げたように

ヴァイオリン 開放弦 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

 

 

 

というように

 [ソ][レ][ラ][ミ]の音で調弦されているヴァイオリンでは

 そのように左指で押さえない状態を開放弦(かいほうげん)といい0で示しますが

 例えば

ヴァイオリン 音程 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

 

 

 

という[シ]の音は

ヴァイオリン 音程 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

 

 

 

というように[レ]の開放弦と重音で綺麗に調和する音程よりも

ヴァイオリン 音程 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

 

 

 

というように[ミ]の開放弦と重音で綺麗に調和する音程のほうが高いので

音程が固定されているピアノなどの鍵盤楽器を叩いてヴァイオリン音程を取らせるなどということも、本来のヴァイオリンのレッスンでは決して行われない…というよりも、それではヴァイオリンの音程は取れないのです。そして、既述のような音の成り立ちによって楽器本来響きを発するように創られているヴァイオリンにおいては、チューナーピアノを使って音程を取らせてしまった時点で、それはもはやイギリス経由のカレーであって決してインドの本格的なカレーではないのと同じでヴァイオリンの本格的なレッスンとは言えない…というよりも、カレー以前に調理としての基本から外れてしまっているのと同じでヴァイオリンの指導ではないのです。ところが、音大卒生やプロでさえも指導の際にチューナーやピアノを使って音程を取らせる人が居たりしますが、そうした人達というのは、これも前の記事で書いたように音程の取り方も知らずに兎に角ひいて弾いて弾きまくって徐々にそれっぽい音程に近づけているだけなのです。

けれども

 ヴァイオリンというのは作音楽器であり、そこでは音程の取り方だけを見た場合でさえも、長年の叡智によって築き上げられた伝統的な方法というものが存在するので、そうしたことも知らず習わずわからずに何となく弾いていたのでは、それっぽい、それらしいどころではなく、徐々にヴァイオリン本来の音程や弾き方から外れてしまい、似て非なる弾き方に陥ってしまうのです。ですからヴァイオリンを独学で弾いていたり、ヴァイオリン音程チューナーピアノを使って取らせるような先生に就いていたのでは、何時までたっても真面な演奏ができるようにはなれないのです。

 

そして

 ヴァイオリンの場合、音程の取り方だけではなく練習方法や実際の演奏でも、長年の叡智によって築き上げられた伝統的な方法が多数存在します。そのため、そうしたやり方の総てを考えに考え抜く過程で、前の記事でも書いたように、私が嘗て師事した故・鷲見三郎先生からも、故・鷲見四郎先生からもよく「岩本さんは考え過ぎ」と注意されましたが(笑)そのような私の為体とは比較にならない次元でのこととはいえ、MaxRostal先生による校訂内容に対して同様に「考え過ぎ」という発言をされた世界的な名演奏者にして名伯楽である先生に後年出会うとともに、その先生に出会う数年前には、そうした要素を一つひとつ学び重ねるべく、練習では一音いちおん弾き紡がなければならない…ということを痛感させられる出来事も目の当たりにしました。

 

ということで

 私の為体とは異なる次元でMaxRostal先生による校訂内容を「考え過ぎ」と評したのは、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現在のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)のコンサートマスターにして、“オランダのパガニーニ”とまで評されたことがあるヘルマン・クレバース先生です。そして、日本でもクレバース先生に師事した人は複数居て、その日本人の方にクレバース先生が共通して“ある物”を伝授していますが、実はそれは…ということについては、また別の機会に書きたいと思います。などと書けるくらいなので、あの長身でありながらもニコニコとした笑顔で、それでいて的を射た指導をされる過程で、もしかすると他の生徒さん方と比べると、かなり詳細に色々なことを教えていただけたのではないかと思っています

ところが

 クレバース先生ご自身は、校訂譜に関しては既述のように指摘された他には何も具体的には仰らなかったものの、確かにMaxRostal先生の校訂内容というのは考え過ぎの側面もある…などと思いながら楽譜店で色々な校訂譜を見ていたところ、偶然目に入って来たのが下掲のクレバース先生が校訂した楽譜でした。

フォーレ ヴァイオリン ソナタ クレバース Fauré VIOLINSONATEN Opus 13 und Opus 108 EDITION PETERS Nr.9891 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

Fauré VIOLINSONATEN Opus 13 und Opus 108

EDITION PETERS Nr.9891

そして、フォーレ/ヴァイオリン・ソナタといえば、その馥郁とした響きが魅力であるだけに、どうしても複雑なポジション移動を多用して開放弦の使用は極力控える校訂内容の譜面が多数有るなかで、上掲の楽譜におけるクレバース先生の校訂内容は開放弦も比較的多用したできるだけ単純な運指と運弓が記載されているにもかかわらず、実際に弾いてみると平板な表現になることなくフォーレの作品の魅力を十二分に活かす校訂内容になっていて、まさにクレバース先生がMaxRostal先生による校訂内容を「考え過ぎ」と評した論拠を見る思いがしました。そして、クレバース先生による特にベートーヴェン/ヴァイオリン協奏の録音を聴く

クレバース(ヴァイオリン)ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

クレバース(ヴァイオリン

ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

こそ違うものの、フォーレ/ヴァイオリン・ソナタの校訂譜でも見られた単純でありながらも味わい深い運指・運弓による素晴らしい演奏であることがわかります。

 

そうした点では

 例えばモーツァルト/ヴァイオリン協奏の第3番では、グリュミオーによる定盤にして名演奏の録音などでも、イザイによる複雑なカデンツァが演奏されていたり

グリュミオー(ヴァイオリン)デイヴィス指揮ロンドン交響楽団 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

グリュミオー(ヴァイオリン

デイヴィス指揮ロンドン交響楽団

モーツァルト/ヴァイオリン協奏の第3番と第5番をカラヤンさんと録音してデビューしたムターが弾いているサム・フランコのカデンツァも、イザイよりも単純とはいえ未だ冗長な感じがして

ムター(ヴァイオリン)カラヤン指揮ベルリン・フィル ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

ムター(ヴァイオリン

カラヤン指揮ベルリン・フィル

その何れのカデンツァも、いわば考え過ぎの類のように感じていました。

そうしたなか

 ツィンマーマンがサヴァリッシュ指揮ベルリン・フィルの伴奏で録音したCDが発売されたので聴いてみると、既述のような他のカデンツァよりも単純でありながらも味わい深い、もしもモーツァルトが生きていたらば、自らもヴァイオリンを奏でたモーツァルトもこのように弾いたのではないかと思いたくなるほどのカデンツァが演奏されていました。

ツィンマーマン(ヴァイオリン)サヴァリッシュ指揮ベルリン・フィル ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

ツィンマーマン(ヴァイオリン

サヴァリッシュ指揮ベルリン・フィル

そして、ツィンマーマンはメニューインに対して「あなたのレッスンは役に立たない」と言い放ってクレバース先生のもとに移るとともに、自らが当時録音していた…というよりも、録音してしまっていたベートーヴェン/ヴァイオリン協奏についても、クレバース先生による既掲の録音の存在を後から知り「あんな素晴らしい録音があると知っていたら、自分はベートーヴェンの協奏は録音しなかったのに…」と言っていた程でした。そうしたことから、クレバース先生ができるだけ単純な運指や運弓を心がけていらしたことの影響も有って、ツィンマーマンはモーツァルト/ヴァイオリン協奏 第3番でも、既述のように単純でありながらも味わい深い、モーツァルト自身がそう弾いたのではないかと思えるほどのカデンツァを演奏していたのだろうと思います

とはいえ

 そのようなツィンマーマンとクレバース先生との関係を想起したのは、既述のように私自身がクレバース先生に色々と教えていただいた後のことであって、既掲のツィンマーマンによるCDに遭遇した当時は、ただ単にこれは誰の書いたカデンツァを弾いているのだろう…と、当時師事していた故・鷲見四郎先生に伺ったことがありました。すると四郎先生は突然「お~い、フランク・ペーター!」と大きな声で名前を呼んだのですが、言われてみればツィンマーマンの名前はフランク・ペーター・ツィンマーマン…ということで、丁度来日して、練習するために四郎先生のお宅に来ていたツィンマーマン本人が現れたのには驚きました。そして、そのCDに関しては、特に輸入盤ではなく国内盤(日本盤)に関してツィンマーマンがあることを語った内容については、ちょっとここでは書けないのですが(笑)カデンツァに関してはバイヤー版を使って録音したことを教えて貰いました。そして、既述のやりとりは、私が普段からお世話になっているカマクラムジカさんのブログでも紹介していただいています

バイヤー モーツァルト ヴァイオリン協奏曲 カデンツァ Franz Beyer Kadenzen zu Mozarts Violinkonzerten edition kunzelmann GM18 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

Franz Beyer

Kadenzen zu Mozarts Violinkonzerten

edition kunzelmann GM18

http://hantanyannyan.blog58.fc2.com/blog-entry-611.html

そして

 バイヤーといえば、モーツァルト/レクイエムを校訂したバイヤー版が今では広く知られていますが、かつてはバイヤーもヴィオラ奏者として参加していたコレギウム・アウレム合奏団による最初の収録以外では、マリナー指揮アカデミー管弦楽団による録音が有るだけで

モーツァルト /レクイエム バイヤー版 マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団 ヴァイオリン教室 バイオリン レッスン

モーツァルト /レクイエム バイヤー版

マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団

他は実験的な演奏しか見当たりませんでした。けれども、今では多くの指揮者が、モーツァルトの弟子のジュスマイヤーが完成させた版ではなくバイヤーが研究し完成させた版で録音していることからも、バイヤーのモーツァルト研究の成果の見事さが窺えます。加えてバイヤー自身が優れたヴィオラ奏者であることから既述のモーツァルト/ヴァイオリン協奏のカデンツァはヴァイオリニストにとって演奏上全く無理のない内容になっていることも、その研究成果に基づくモーツァルトらしさを一層引き立てています

 

もっとも

 既述のようにツィンマーマン自身から直接、その録音で用いたカデンツァの譜面について教えて貰えたこともさることながら、私にとって更に驚かされたのは、そのツィンマーマンが四郎先生のお宅で練習していた時の様子で、それは一音いちおん音程やフレーズの処理を確かめながら弾き、一音いちおん音程が高いか低いかを確認しながら弾くというものでした。と書くと、それは天才ヴァイオリニストならではの練習方法…と思う人が居るかもしれません。けれども既述のようにヴァイオリン演奏においては長年の叡智によって積み重ねられた音程の取り方や様々な演奏方法というものがあり、そうした要素を一つひとつ確認しながら弾くためには、ツィンマーマンがそうしていたように一音いちおん確かめながら弾く以外に方法は無いのです。そして、事実、ツィンマーマンとは比べることさえ考えられない凡庸な私のみならず、私の周囲の老若男女、プロ、アマ、何れの学習者においても、一音いちおん確かめながら弾くことによって、一音いちおん確実に弾けるようになり、正確で安定した演奏が実現できていることから、これはツィンマーマンのような天才的なヴァイオリニストだからこそ行う練習方法なのではなく、ツィンマーマンのような天才的なヴァイオリニストでさえもそうするしかないヴァイオリンの唯一の練習方法だと考えています。であればこそ、私のサイトでも書いたように練習の教材を大量に課題として課すのではなく、教材の中から曲単位ではなく時には数段や数小節など限られた範囲を選び出し重点的に反復練習すべく一音いちおん確かめながら復習うように指導し、どなたにも確実な成果を得ることができ ています。

ですから

 これもまた私のサイトに書いたように最初は大雑把で徐々に正しく…というやり方は却って遠回りになってしまうのです。ましてや、チューナーやピアノで音程を取らせ、大量のエチュードをそれっぽく弾き通し、それなりに弾けるようなつもりになったところで、その演奏は不安定で、せっかく学んだ楽曲も数年どころか数か月でまた弾けなくなってしまうのです。それに対して、ヴァイオリンならではの音程の取り方で弾き、その学習者において最も重要だと思われる課題を取捨選択したうえで一音いちおん確かめながら復習うことで演奏確実になり、そのようにして学んだ楽はかけがえのないものとなるのです。そして、学習者…というよりも、ヴァイオリンを愛し学び奏でる総ての人において、そのいずれが望まれるかということは論を待たないところだと思います

 


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